1999年4月19日 ニューヨーク・カーネギー・リサイタルホール
ハリス・ゴールドスミス氏「ニューヨーク・コンサート・レヴュー」紙
・・林直美は、現在ヨーロッパで研鑽を積んでいる若い芸術家である。林の透明なタッチ、リラックスした自然な音楽性は、モーツァルトのソナタニ長調K.311を時代に即した貴族的な解釈で演奏した。(抜粋)
2003年10月15日 ピアノリサイタル ドイツ/ドナウヴェルト
ドナウヴェルト新聞
・・きらびやかで、ほぼ満席のエンデレ・ホールにおいて、彼女が鍵盤から引き出したものは非常に印象深いものとなった。ハイドンのソナタハ長調では、聴衆をウィーン古典派の世界へと導き、生きる喜び、美しい旋律によるファンタジー溢れる豊かなものだった。三善晃が1980年に作曲した、”En Vers” に続き、スクリャービンの24のプレリュードでは、様々なテンポ、テンペラメント、声部、雰囲気が表現された。彼女はピアノにおける感情の扉をすべて開き、作品への共感を表現した。シューベルトの後期のハ短調のソナタでは、聴衆をウィーンの古典からロマン派へと導く能力、正確さ、様々なニュアンスを感じ取る能力で、林直美の解釈は際立っていた。彼女は高い集中力により、演奏曲の多くの要求をマスターしている。聴衆の喝采は多方面で優秀なピアニストの演奏に値するものであった。林直美のドナウウェルトの公演は、彼女の大きな能力を、確実に証明するものとなった。(抜粋)
2004年6月22日 津田ホール
「ムジカノーヴァ」 9月号
・・・林の演奏でまず挙げるべきことはスケールの大きさ、伸びやかさ、そしてすでに風格とも言えるものを持っていることである。この点はプログラム1曲目のハイドンのソナタ第50番ハ長調から、すでに示されていた。しかし一方で、ウィットさにも富み。第2楽章ではオペラティックな歌唱法も聴かせ、細部にまで生命の躍動が溢れていた。
彼女の音楽のこうした美点はスクリャービンのプレリュード作品11にも活かされていた。この曲では音色への配慮も行き届き、1曲ごとにさまざまな感情の深層を描き出していたのが見事であった。
後半のシューベルトソナタハ短調D958では、この大曲を真正面から捉え、堂々と弾き切るあたり、並みの力量ではない。ピアノを無理なく歌わせ、和音をまとまり良く響かせる才能は得がたいものであるし、楽想の展開も熟考されたものであった。音楽をのびのびと表現することのできるこの逸材が、さらに豊かに開花することを心より願う。(加藤一郎)
「ショパン」 9月号
~心の中にあふれる音楽を持つ~
・・・最初のハイドンのソナタ第50番第1楽章では、大きな動きのあるフレーズの受け渡しがまことに巧妙であり、左手とのバランスもよく細部の音楽の流れもきれいで、様式間をうまくつかんでいた。第2楽章では、きれいな音色の繊細な表情の音楽が奔流のごとく伝わってくる。第3楽章も、スケルツォ的な音楽の中に独特の表情が浮かびあがり、音楽的にも完成度の高いハイドンとなった。次はスクリャービンの「24のプレリュード」、ここでは全曲を大きな視点でとらえて内容ある面白い音楽を表出する。数多い各曲の各々の表情をみごとに表現していった技量はたいしたものだ。音色もこの作曲家が意図したものに近かったのではなかろうか。後半はシューベルトのピアノソナタD958、第1楽章では第2主題の旋律も良く歌えてクロマティックなスケールもみごと。第2楽章の主題も美しく、3連符のリズムもうまい。第3楽章は舞曲のような旋律の中に歌が流れる表情が心地よい。フィナーレでの展開にも大きな力がみられ、正統的なシューベルト音楽を格調高く聴かせた。このピアニストの大きな特徴は、心の中にあふれる音楽を持っていることである。演奏の中に生き生きとした躍動感があり、音楽が湧き出てくるのだ。それがピアノを通して聴き手に伝わってくると、こちらも何かたっぷりと満たされた気分を感じてしまうのである。(家永 勝)
「音楽現代」 9月号
・・・ハイドンとしては比較的規模の大きなピアノ・ソナタであるが、この大曲に対し、構成美をはっきり打ち出し、また内容的な充実感を持つ、聴き応えのある取り組みである。スクリャービンでは初期の曲特有のロマン的な味わいを内包し、魅力のある感情表現がみられた。全24曲のそれぞれの個性が丹念に打ち出され、しかも卓越した演奏技巧も見逃せない。また最後のシューベルトは重厚な雰囲気をたたえ、とりわけ第二楽章の雅味のある情緒が印象に残った。(飯野 尹)
2006年10月13日 ローランド・バルディーニ&林直美 デュオの夕べ 四谷区民ホール
「ムジカノーヴァ」 2006年1月号
上質な演奏とはこういうのを指すのだろう。ウイーン生まれのヴァイオリン奏者ローランド・バルディーニと桐朋学園大からドイツに学び、現在もベルリンを拠点に活動を続けるピアニスト、林直美による「デュオの夕べ」。
最初に演奏されたのはモーツァルトのヴァイオリン・ソナタニ長調K.306。その充実したアンサンブルは豊かな音楽の美を描く。マンハイム学派の影響下で若々しい息吹が横溢したこの作品が、純度の高い演奏で示される。とりわけ林のピアノは、響きの作り方といい打鍵のセンスに並々ならぬものを感じさせる。同じくベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番<スプリング>は、ひとつの典型を示すかのような演奏。それはテンポやデュナーミクだけでなく、ひとつのボーイングの中にベートーヴェンが宿り、ピアノのわずかなタッチやペダルの中にもベートーヴェンを意識させる。そこから厳然としたアンサンブルの緊張感が湧き上がる。そうした気迫の中にも、さわやかで歓びに溢れた第1楽章、うっとりとするような会話を聴かせた第2楽章、そしてロンド楽章の見事な呼吸など、いずれも文句なしの演奏。後半はフランクのヴァイオリン・ソナタイ長調。この名曲の中で聴かれたのはピアノとヴァイオリンの真剣勝負。2人の緊張感のなかにフランクの精神世界が見事に展開された。林直美はペダルに細心の注意を働かせて音の陰影を描き出してみせることのできるピアニスト。これは経験だけでなく、たぶん本能的なものなのだろう。彼の地における「演奏芸術の現在」を聴かせたコンサートだった。(河原 亨)
「音楽現代」 12月号
日本にもしばしば演奏に訪れ馴染みのあるウィーン生まれのヴァイオリニスト、ローランド・バルディーニと、ベルリンに在住、ヨーロッパを中心に活動しているピアノの林直美がデュオ・コンサートを開いた。
曲目はヴァイオリン・ソナタ3曲。最初はモーツァルトのニ長調K.306を演奏。そこには簡潔な中に温かみのある曲調が感じられる。特にピアノの彫りの深い、落ち着いたタッチにのって、ヴァイオリンが美しく旋律を奏でたのが印象深い。
次のベートーヴェンのソナタ第5番「春」では、豊かな抑揚をもつ感情の動きが全体に流れていて、抒情を引き出すヴァイオリンと、風格をもって支えてゆくピアノとが美しい対比を示していた。
最後のフランクのソナタは構成がしっかりしていて、全楽章にわたり何度も現われる主題の変容は鮮やかで、そこに耽美的味わいを感じた。とりわけ終楽章にみられる、高揚してゆく情感のほとばしりは見事なアンサンブルの成果といえる。(飯野 尹)
インタビュー記事:「レッスンの友」誌 2006年3月号 p.56~59
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2006年8月22日 ルーテル市谷 林直美 リサイタル批評
「音楽の友」 10月号
・・・モーツァルトは木目細かいテンポの微妙な変化やルバートが古典的な様式の中で、馥郁と息づいている。モーツァルトのデリケートなセンスをうまく表現し得たのではないか。タッチにも工夫を凝らしたベートーヴェンも格調高い気品を備えていたが、この日はショパンが秀でていた。
極めて複雑な感情を注ぎ込んだソナタに対し、多彩な音と心の動きを丁寧に織り込みながら、純度の高い音楽として表現する林の力量は著しく充実している。振幅や起伏も充分、何よりも音楽を進めていく情熱に彩られた演奏であった。(真嶋雄大)
「ムジカノーヴァ」 11月号
・・・ルーテル市谷センターのリニューアル記念公演として開かれた当夜はモーツァルトのソナタニ長調K.311に始まった。心地よい流れの中に、林のバランスのとれた音楽性が感じられる。続くベートーヴェンのソナタ13番作品27-1については、全体の流れを見繕えたしっかりとした構成が印象に残ると共に、林の幅広い活躍ぶりと豊かなステージ経験を反映した、落ち着いたマナーなども注目された。ドビュッシーの「喜びの島」では、効果的なペダリングによって、ドビュッシー独特の響きと雰囲気が伝わってきた。プログラムの後半は、ショパンのソナタ第3番ロ短調作品58である。林の恵まれた音楽性を物語る巧みな節回しが散見され、また、表現のスケールの大きさも印象的な演奏だった。今後のさらなる活躍が楽しみな若手である。
(原明美:筆者はこのコンサートを「音楽の友・2006年コンサートベスト10」にも選出。)
レッスンの友 2008年6月号 インタビュー記事 (p.40~43)
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ショパン 2008年6月号 インタビュー記事
音楽現代 2008年6月号 インタビュー記事
ムジカノーヴァ 2008年6月号 インタビュー記事
ぴあ 2008年6月12日号 (p.130)
ぶらあぼ 2008年6月号
ドイツで育まれた才能
~桐朋学園からハノーファー音大に留学し、以後12年にわたって研鑽を積みながら、演奏家として活躍してきた林直美。2003年にはドイツ国家演奏家資格を審査員の満場一致の1等賞(最優秀)で取得し、スタインウェイ・アーティストにも認定された。日本でのリサイタルの経験はあったが、これからは日本を拠点にして活動を展開していくことになった。そのきっかけのひとつは洗足学園音大と京都市立芸大の講師の要請を受け入れたこと。さらに時を同じくして、デビュー・アルバムもリリースされる事になった。モーツァルトとスカルラッティ、スクリャービンというユニークな選曲ながら、どれもが彼女が今まで弾き込んで来たレパートリーというだけあって、磨き上げられた美しい音色と練られた表現が見事。気鋭のピアニストであることを十分に証明している。アルバムにリンクしたリサイタルは、スクリャービンの代わりにベートーヴェンの初期のソナタとシューマンの「謝肉祭」を。ドイツでの音楽活動の成果をしっかりとアピールしてほしい。(堀江昭朗)
音楽の友 2008年6月号
「スタインウェイ・レーベルからCDデビュー。6月にはリサイタルも開催。」桐朋学園を経て、ハノーファー音大、ベルリン・ハンス・アイスラー音大大学院、ライプツィヒ音大大学院で研鑽を積んだ林直美が、待望のデビューCDをスタインウェイ・レーベルからリリースした。 音色・音の強弱が絶妙にコントロールされたバランスの良いモーツァルトに、高度な技巧を要求するスクリャービンという、林のテクニックと音楽性が十分に堪能できるカップリングとなっている。 6月にはリサイタルも開催する。デビューCDに収録された曲の中からスカルラッティとモーツァルトの作品、それにベートーヴェン・ソナタ、シューマン「謝肉祭」を加えたプログラム。林の実力が遺憾なく発揮され。その音楽性を存分に味わうことができるコンサートとなるだろう。今春からは洗足学園、京都市芸大で後進の指導にもあたるという。海外から日本の拠点をシフトした林、今後の国内での活動が楽しみだ。
レコード芸術 2008年7月号(準推薦盤)
当欄にこの名前は初めてだな、と思ったら、案の定CDのタスキに「ファースト・アルバム」と記してあった。ただけっして駆け出しの新人ではなく、12年もドイツを本拠として、欧米での活動暦を経てきたという。それだけのキャリアは、たしかに、CDに刻まれた演奏の内にも反映して見える。「モーツァルトとスクリャービン」なる取り合わせにおそらく深い意味はなく、要は「弾きたいものを弾いた」ということのようだが、いずれもセンス良く掌中に収めきって奏でた趣の“聴かせる演奏”となっているのが快い。モーツァルトは「ソナタ」ニ長調を選んで、「ロンド」ニ長調と「幻想曲」ニ短調をその前後に配した選曲。Dの調でまとめたわけだが、明暗それぞれの曲想をデリケートに表現して、心を惹くものを持っている。「センスの良さ」は、モーツァルト・スクリャービン間のつなぎに置かれたD・スカルラッティのソナタ2篇にも軽妙に発揮されており、おそらくどのようなレパートリーを手がけてもおのずと現われる、この人の資質なのであろう。後段のスクリャービン「24の前奏曲」でも。プレリュードをそれぞれの性格をよく把えて好演をつらねる。変拍子、リズムの錯綜といった局面への対応もすぐれ、終始滑らかに、効果よく奏でている。凡庸ならぬ才覚を煌かせたデビューCDは、今後を大いに期待させる。(濱田滋郎 著)
オーディオ・ベーシック 2008 Summer
ドイツから日本に拠点を移した林直美がモーツァルト、スカルラッティ、スクリャービンの作品を演奏したCD.録音はN&Fの音楽プロデューサー、西脇義訓。演奏者がホールと楽器になじむことから始めるという理想的な録音を完成。最初の一音を聴いただけで藻、響きの整った好録音であることがわかる。モーツァルトでは哀愁に彩られながら孤高を貫く感の「幻想曲ニ短調」が素晴らしく、スクリャービンでは軽妙なフレージングの妙が味わえる。オーディオファイルにとっても貴重な一枚だ。CDジャーナル 2008年7月号ドイツで12年にわたって活動してきた彼女の帰国第1弾。スタインウェイ・アーティストらしい堂々とした風格を備えたピアニズムは、円熟すら感じさせる。過不足ないモーツァルト、表情豊かなスカルラッティ、曲によって千変万化するスクリャービン。早期の第2弾を臨む。(堀江昭朗)
音楽現代 2008年8月号(推薦盤)
ここで鳴っているピアノ(スタインウェイD274 )はホールの程よい残響を伴って楽器本来の輝かしさと拡がりを謳歌しているが、音色の良さだけでは音楽CDの価値は半分だ。このCDが素晴らしいのは林直美の演奏が(とくにスクリャービンの24の前奏曲で)秀逸だからだ。林はドイツで活躍、近年日本に居を移した新鋭で、この隠れた名作の魅力を存分に堪能させてくれている。時に濃密。時に恥じらい、初期とは言え、作曲家の神秘的な内奥を覗き込むような深淵をここに聴くことが可能だ。プログラムの前半のモーツァルトとスカルラッティは率直で衒いのない演奏。(保延裕史著)
2008年6月9日東京文化会館リサイタル批評
音楽の友 2008年8月号
桐朋学園卒業後ハノーファーに留学、さらにベルリンとライプツィヒに学んだ林直美が活動の拠点を日本に移し、その出発点となるリサイタルを開いた。のびやかな資質を持った大型ピアニストである。良いタッチを持っているので打鍵時に雑音が生じず、音色の透明度も高い。 スカルラッティのソナタ3曲では持ち前の音の美しさと作為のないダイナミクスが光る。次いで奏されたモーツァルト「ロンド・ニ長調」と「幻想曲ニ短調」でも明晰なタッチが良い結果を生み、主音を同じくする2曲の対比効果も感じられた。ベートーヴェン「ソナタ3番」は、作曲者の若い息吹を感じさせるみずみずしい演奏。 後半はシューマン「謝肉祭」。各キャラクターの入念な描き分けが小気味よく、ことにヴェールの掛かったような音色で奏されたオイゼビウスと情熱に燃えるフロレスタンの対照性が際立つ。道化役者達のコミカルな動きも目に浮かんだ。(荻原由喜子)
音楽現代 2008年9月号 2008年6月9日リサイタル批評
桐朋学園卒業後、渡独。ハノーファー、ハンス・アイスラー、ライプツィヒ各音大で研鑽を積み、今春より10余年に至る欧州での活動の拠点を日本に移した林。想いの沢山詰まった作品達なのだろう。演奏上の細かい部分云々より、何より心に響く瞬間が多かったことを、まず書きたい。 スカルラッティのソナタ3曲。ペダルを多用せず、スカルラッティが持つ響きを蔑ろにしていない。この当時のフォルムも大切に扱い、続くモーツァルト(ロンド、幻想曲)でも、その時代の香りを見抜いた上で奏法を変化させている。ベートーヴェンのソナタ第3番は、少々慎重な進め方が惜しかった。音の彫りは、イコール(ベートーヴェンの)精神性。もっと攻めの気持ちでも良かったかと。後半のシューマン謝肉祭。大きな曲を無理のない造りと各曲を自然なテンポで紡いでいる。知的な解釈と温かいアプローチ。技巧的な部分で硬くなる関節。林なら経験で解決可能だろう。(上田弘子)
レッスンの友 2008年9月号 p.22~29
メンデルスゾーン「無言歌」についてのエッセイ
~素晴らしいメロディーの宝庫である「無言歌」を楽しんで~ |